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2022.01.31

なぜ会社は「社有車の事故」を防止しなければならないのか? その「法的責任」とは

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もし、あなたの会社の社員が「社有車」で交通事故を起こしてしまったら? 社有車で起きる事故は運転していたドライバーはもちろんですが、雇用元である会社も責任を問われることがほとんどです。社員の健康状態を適切に管理し、車両のメンテナンスも行き届いているという状況でも、会社が賠償責任を負うことが多いのが実情です。 このような事故をできるかぎり減らすことは、当事者である社員だけでなく、事業のために社有車を用いる会社にも求められ、交通事故を未然に防ぐよう日頃から対策を取る社会的責任を負っていると言えるでしょう。 今回は「社有車の交通事故」と「会社の法的責任」について、確認していきます。

民法で定められた「社員と会社の責任」とは

社員が社有車に乗って交通事故を起こした場合、その社員に過失があれば、まず民事上の責任が生じる可能性があります。この民事責任は、民法709条で定められた「不法行為」にもとづく損害賠償責任です。

民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

この不法行為責任は、誰かの生命・身体を傷つける「人身事故」のほか、誰かの物を壊してしまう「物損事故」の場合も、その損害を賠償する責任が生じます。

賠償責任を負うのは、事故を起こした社員だけではありません。その社員を雇用している会社にも、責任が発生する場合が多いのです。

具体的には、民法の「使用者責任」と、自動車損害賠償保障法の「運行供用者責任」です。ここからは、この2つの民事上の責任について、ポイントを解説していきます。

広く賠償が認められやすい「使用者責任」

「使用者責任」は、民法715条で定められている「使用者」の損害賠償責任です。



民法715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

この条文にあるように、会社などの「使用者」は、社員などの「被用者」が「事業の執行」に関連した行為によって第三者に損害を与えた場合、賠償責任を負います。

では、社有車の事故の場合、どうなるでしょう。

たとえば、社員が社有車で営業先に向かっている途中に交通事故を起こして、第三者に損害を与えた場合は、「事業の執行」についての事故といえます。したがって、社員だけでなく会社も、「使用者」として賠償責任を負うことになります。

被用者の選任や事業の監督について、使用者が「相当の注意」をしていたときや、「相当の注意」をしても「損害が生ずべき」であったときは、「この限りではない」という定めもありますが、実際の裁判では、使用者である会社が免責されることはほとんどありません。なぜなら、会社は社員を使用して利益を上げている以上、その過程で生じるリスクも負担すべきだと考えられているためです。

社有車による事故は「事業の執行」に関連した事故とみなされやすい

裁判で争点となりやすいのは、その事故が「事業の執行」に関連して起きたのかどうか、という点です。わかりやすくいうと、会社の業務に関する運転といえるのかどうかが問題になります。

この点、裁判では、「事業の執行」に関連した事故とみなされる場合もあることに注意が必要です。

たとえば、社員が会社の車を無断で「私用運転」して交通事故を起こしたケースにもかかわらず、会社の管理状況等を考慮して、その運転が「事業の執行」に関連していると判断された判例があります(最高裁判例・昭和46年12月21日)。

本来、会社の車を無断で私用運転することは、適正な業務とはいえません。しかし、会社の車は通常、会社の支配下で運転されるのが通常であるため、外形的にみると「事業の執行」に関連しているものと判断されることがあるのです。

要は、「外部の人間」からみると、社員が社有車を運転していた場合、会社の業務に関する行動とみられても仕方がないだろう、ということです。被害者の保護を重視した考え方で、外形的に判断するので「外形理論」と呼ばれています。

このように、社員が社有車で交通事故を起こした場合、会社の「使用者責任」が広く認められる場合もあるため、事故を防ぐためにできるだけ対策を取る必要があるといえます。

人身事故に対する賠償を判断する「運行供用者責任」

「運行供用者責任」は、自動車損害賠償保障法(自賠法)3条で定められている、自動車の「運行供用者」の損害賠償責任です。

自動車賠償保障法3条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。

運行供用者とは、この条文の「自己のために自動車を運行の用に供する者」のことですが、ややわかりにくいかもしれません。別の表現では、運行供用者とは「自動車の運行を支配して、利益を得ている者」とされています。

社有車の場合、会社は、その自動車の運行を「支配」して「利益」を得ているといえるので「運行供用者」にあたります。

そして、自賠法3条によると、運行供用者が支配している自動車の事故が起き、誰かの生命・身体が傷つけられた場合、運行供用者は損害賠償責任を負うことになるのです。

ポイントは、ここで賠償の対象となる損害は、あくまでも「人身」に関するものであって、物損は含まれていないということです。物損については、さきに触れた「使用者責任」でカバーされることになります。

人身事故で「運行供用者責任」を免れることはあるのか

運行供用者が次の3点をすべて立証すれば、賠償責任を免れることができます。

(1)自己と運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかった
(2)被害者または運転者以外の第三者に故意・過失があった
(3)自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかった

しかし、実際にはこの3点を立証することは非常に難しいため、運行供用者責任は「無過失責任に近い」と言われています。無過失責任とは、仮に過失(ミス)がなかったとしても、実際に損害が生じれば賠償しなければいけない責任のことです。つまり、運行供用者責任は、それぐらい重い責任だといえます。

裁判で問題になることが多いのは、社員が無断で「私用運転」した場合でも、会社が運行供用者責任を負うのかということです。この点、被害者保護の観点から、使用者責任と同様の「外形理論」が適用されて、会社の責任が認められやすいのが実情です。

過去に、農業協同組合の運転手が組合所有の自動車を無断で私用運転して、事故を起こしたというケースがありました。この事案では、客観的・外形的にみて、組合は「運行供用者」にあたるとして、その賠償責任が認められました(最高裁判例・昭和39年2月11日)。

このように、社員が社有車で人身事故を起こした場合、会社が運行供用者責任を負う可能性もあるので、事故を防止するための対策は不可欠といえます。

業種によっては、行政責任や刑事責任を負う場合も

ここまで見てきたように、社有車の事故が起きると、会社には使用者責任や運行供用者責任といった民事上の責任が発生する可能性があります。

この他にも、行政責任や刑事責任が生じる場合もあります。

会社が行政上または刑事上の責任を追及されるケースはさまざまなものがありますが、たとえば、道路交通法では、会社の管理職などの「自動車の使用者」は、自動車の「運転者」に対して、過労運転や酒気帯び運転などの行為を命じたり、容認したりしてはならないと定めています。さらに、この規定に違反して、著しく道路交通の危険が生じる恐れがある場合には、行政上の処分として、一定期間、自動車の使用が制限される可能性があります。

こうした行政責任のほか、労働基準法や労働安全衛生法といった社員の健康や安全を守る法律に基づいて行政責任または刑事責任を問われる可能性があります。これらの法律を守ることは事故の発生を抑制することにつながります。

しかし、これらの法律を守っていても、社有車で交通事故が起きた場合には使用者として「相当の注意」をしていたとはみなされず、運行供用者として「自動車の運行に関し注意を怠らなかった」ということにもなりません。つまり民法や自賠法で定められた使用者責任や運行供用者責任が免責されることにはならないのです。

行政・刑事上の責任と同様に民事上の責任も果たしていくには、これができていれば十分というものは無く、会社として社有車の事故そのものを起こさないことが求められています

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もし社員が社有車で事故を起こせば、それは会社の責任です。しかし、事故が起きた時に賠償責任を果たすだけでなく、事故を起こさないための社会的な責任も負っています。事故をできるかぎり未然に防止するため、その対策をドライバーと共に行う会社の「定常業務」に位置づけて、計画的に取り組んでいくべきでしょう。

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