導入事例
2024.11.07
ANAグループのOCS、当初約6,600件あったリスク運転は60件に激減 ――決め手は「褒める」ための制度と雰囲気作り
ANAのグループ会社であり、国際物流サービスを展開するOCS。陸路と空輸を合わせた国際輸送を「高速」かつ「高品質」で行うことを強みにしています。陸路の集荷・配送を担当する国内のクルーは、1日に100カ所近くを回るような日々。クルーたちの運転は同社のビジネスにおける根幹となっています。
そのOCSでは、全国の車両130台に『DRIVE CHART』を導入。当初は6,600件近いリスク運転が検知されましたが、それを60件ほどに、割合にしてわずか1%にまで減らすことに成功しました。その裏には「褒める」ことを中心にしたクルーとのコミュニケーションがあったとのこと。運用を担当した相沢 誠さんに、導入から成果を出すまでの歩みを聞きました。
会社名 株式会社OCS
業種 国際輸送事業など
保有車両数 130台
導入時期 2022年5月
導入理由 ANAのグループ会社として業務の品質を上げるため、また運転クレームなどを減らすために『DRIVE CHART』を導入。地道な運転教育も行い成果を出した。
クルーに対して「主観」ではない運転指導が必要だった
――OCSとはどんな会社なのか、まずは教えてください。
ANAのグループ会社として、世界50カ国以上、130以上の拠点に及ぶグローバルネットワークを活用した国際輸送サービスを展開しています。輸送する貨物は幅広く、書類などの軽量貨物から機械などの大型貨物まで取り扱っています。
当社の強みはスピードと品質。スピードについては高速輸送サービスを展開していて、日本で午後集荷した荷物を最速で翌日午前には中国まで届けることも可能。品質についても、正確かつ丁寧な配送を徹底してきました。陸路と空輸を合わせた一気通貫の輸送サービスを提供しています。
最近は環境活動にも力を入れています。貨物に使う包装やダンボールのリサイクルなどを行い、CO2の削減が進んでいます。また、同じくリサイクル目的で使い終わったコンタクトレンズの空きケースを回収したり、食料品を子ども食堂に寄贈したりという社会活動もしていますよ。
――そういった事業を行う中で、どのような目的で『DRIVE CHART』を導入したのですか。
一番の理由は、ANAグループとしてサービスの品質を上げなければという思いでした。ドライバーのことを私たちは「クルー」と呼んでいるのですが、クルーも品質の一部です。安全運転を徹底することが、当社の品質向上につながると考えています。
私たちにとって運転は根幹業務ですから、一個一個の運転動作や判断を丁寧に行うようになれば、きっとその人は荷物の確認やお客さまとのコミュニケーションも丁寧になっていく。そう信じていました。
もうひとつ現実的な課題として、クルーの運転に対するクレームも少なからずありました。当社のクルーは「1日100ストップ」、つまり100カ所ほど回って集荷・配達することも珍しくない。そのため、どうしても気持ちに焦りが出てしまうのだと思います。それが運転に影響する。ここをどうにかしたいと思っていました。
――これまで取っていた対策とは何が変わりましたか?
各車両に付けていたドライブレコーダーの運転動画をチェックしたり、クルーに同乗したりして個別に指導していました。ただそれでは、どうしても指導者の主観が入ってしまう。すると、言われたことに対してクルーが腹落ちしないことがあるのですよね。「100ストップ」をしなければならない環境の中では、クルーにも言い分がある。指導に納得してもらえないこともありました。
『DRIVE CHART』に興味を持った理由は、AIが客観的に運転スコアを出してくれますので、そういった主観ではない指導ができると思ったからです。運転全体に対して、さらには「急ハンドル」や「一時不停止」などの項目ごとにもスコアを算出してくれます。
サービスのコストもやさしいと思いました。ドライブレコーダーの運転動画を分析して結果をレポートするサービスは高コストなものが多いのですが、それらと比べて『DRIVE CHART』は明確に安かったのです。
クルーの運転を指導する側にとって、業務効率化できる点も魅力的でした。これまでクルーの運転動画をチェックする場合、1日1台が限界でした。一時停止の有無や急ハンドルなどを細かく確認するには、早送りはできませんから。『DRIVE CHART』なら、危険な運転があるとリアルタイムで検知してメールで知らせてくれるし、その部分の動画を遠隔からすぐに見ることができます。
当社では130台に『DRIVE CHART』を導入していますが、実質的に、今は1日130台の運転チェックができているといえますね。運転スコアも直近24時間の評価をつねにAIが出してくれるので、最近少し運転が気になるクルーのスコアをリアルタイムで確認できます。もしくは朝礼の時、いかにも疲れがたまっていそうなクルーがいたとしたら、その人がその後問題なく運転しているかも見られる。こういうことが導入の決め手になりました。
難しさもある協力会社との運用、どうまとめたのか
――『DRIVE CHART』を導入したのは2022年5月でしたね。協力会社を含めた全社で運用を開始したと伺っています。
東京・大阪・名古屋など、全国の拠点で使用されている車両に導入し、運用を開始しました。ただ私たちにとって悩ましかったのは、クルーの多くが業務委託している協力会社の所属ということでした。自社だけでなく、協力会社を巻き込んで一体で取り組むには工夫が必要だと思っていました。
まずは各社の経営層の方に、このシステムの導入目的を伝えることから。ANAグループとして、安全や品質向上のために運転の質を高めたいと。ここで経営層としっかり合意できたことは大きかったと思います。
その上で、協力会社それぞれに『DRIVE CHART』の運用担当者または運用チームを作ってもらいました。それからは毎日朝礼を行い、協力会社の運用担当とコミュニケーションや報告を行っています。
――こうして運用開始となったのですが、実は最初の1カ月(2022年5月)で6,592件のリスク運転が検知されたとのこと。この数字はどう見ましたか。
数字だけ見るととても多く感じますが、今まで通りの運転で、ありのままの現状としてはこのくらいの結果になると思っていました。特に多かったのは「一時不停止」で、最初の1カ月に2000回以上検知されました。ただこれも、今までのクルーの運転からそうなるだろうという予感がありました。
――その後、具体的にどうやって改善していったのでしょう?
『DRIVE CHART』にはリスク運転の項目が8つありますが、その中で力を入れていく項目の順番を決めました。まず取り組むのは「一時不停止」や「速度超過」、「脇見運転」といった法令違反をなくすこと。その次に「車間距離不足」など、安全意識の向上で改善できる項目に力を入れる。
ここまで減らすことができたら、最後に「急減速」や「急ハンドル」などの減少に着手しようと考えました。なぜなら「急〇〇」と呼ばれる動作は、自分だけではどうにもならないことが多いですよね。突然の割り込みによる急減速や急ブレーキなどが一例。その分、減らす難易度も高いので最後にしました。
――協力会社との取り組みということでしたが、全社が一体になってこの活動を進めるためにしたことはありますか?
とにかく「褒める」ことです。朝礼では前日に高スコアだったクルーを発表したり、成績が良くなってきた会社を讃えたり。年間スコアの高いクルーについても表彰しています。とにかく日々声をかけて褒めることに尽きます。
みんなが同じ方向を向くために、全社で目指す目標スコアも設定しました。月ごとの目標と年間の目標を作っています。さらに、毎月の結果については会社別のスコアを出して全社で共有。競争心で自分ごと化させたいという狙いもありました。
こうした取り組みは、どうしても否定的な人が出てきてしまいます。「この取り組みを否定するのはかっこ悪い」とみんなが思うほどの一体感を作っていくのがポイント。ちなみに、私の所属はOCSグループの中のオーシーエスエクスプレスという、OCSから集配クルーの管理を委託された会社なのですが、オーシーエスエクスプレスの代表がこの活動を後押ししてくれたことも大きかったです。
実は今回の導入に合わせて、代表は当社が管轄する全ルートでクルーに同乗しました。クルーの運転向上を求めるにも、まずは経営トップが各ルートの特徴や難しさ、クルーの大変さを身をもって理解しなければダメだと。『DRIVE CHART』の運営やクルーそれぞれ個性に応じた教育についてもアドバイスをしてくれて。こういうトップの姿勢も大きかったですね。
――トップからのサポートもあって、こういう運営が実現できたのですね。
それだけでなく、『DRIVE CHART』のカスタマーサクセスの方にもよく相談させていただきましたよ。運転スコアをより詳細に分析してもらったり、重点的に取り組んだ方が良いことを話し合ったりして。
クルーの意識を変えるために有効な情報もたくさんいただきました。例えば「脇見が多いからやめましょう」とクルーに言っても、なかなか運転意識は伝わらない。でも「脇見を2秒している間に車は何メートル進みます。それだけの距離があれば、途中で子どもが飛び出してくる可能性は十分ありますよね」と伝えると、脇見の危険性が具体的になりますよね。
運転スコアやリスク運転数といった“数字”だけを示して「改善していこう」と言うだけでは、その後の成果はなかったと思います。数字の提示とセットで教育を行ったことで、クルーの運転意識を変わっていったのでしょう。
――教育において何かされていることはありますか。
分かりやすい取り組みが「KYT配信」(※KYT=危険予知トレーニング)ですね。リスク運転として検出された動画を社内チャットに隔週でクルー宛に配信し、同じ場面でどのような運転をすればよかったかをみんなに考えてもらっています。
例えば見通しの悪い交差点で飛び出しがあり、クルーが急減速したとします。このリスク運転(急減速)を防ぐにはどうすればよかったのか。本来なら、見通しが悪い時点で「飛び出しがあるかも」と予測し、徐行することが必要。そういうことをKYT配信で啓蒙しています。
先ほど、「急〇〇」は自分だけではどうにもならないことが多いと言いました。ですのでまずは法令違反や安全意識で改善できる項目から手をつけました。幸いその点で結果が出てきたので、今は「急〇〇」を防ぐための危険予知や予測を重視した教育をしています。
あわせて「独りよがりの安全運転」もなくさなければなりません。仮に一時停止を守るようになっても、止まり方が急なら後方車両に迷惑をかけたり、時には追突されたりします。ANAの看板を背負っているからこそ、自分だけの安全ではダメなのです。ゆっくり減速してから停止するなど、周りが分かるように止まる必要がある。こういうことも伝えていますね。
今後はOCSのブルーを見て「安全運転の車」だと思われるように
――現在までにどのような成果が出ていますか。
リスク運転は月60件ほどに減ってきました。多い月でも100件以内に収まっているので大きな成果だと思います。
もうひとつ、個人的に成果と捉えているのは、『DRIVE CHART』を導入して以降、車両の平均速度がはっきりと下がったことです。走行速度が落ちればいろいろな危険を回避できますし、事故に遭っても被害は少なくなるでしょう。その点でも大切だと思います。
外的要因の部分もあるので事故を0件にするのは難しいとは思うのですが、走行速度が低ければ事故の被害を必ず軽減出来るはずなのです。
こうした成果が出てきたので、当社のクルーは安全運転を徹底していることを周りの車に示すために「車間距離にゆとりを持って運転します」というプレートを車両に貼るようにしました。これもひとつの成果だと思っています。それだけクルーに安全運転が浸透した証拠ですから。
――これからの目標はありますか。
先ほども言ったように、これからもクルーに予測運転や危険予知の意識を浸透させていきたいですね。リスク件数の傾向として今は脇見が多いので、それを何とかしたい。脇見をしてしまうのは 、速度超過を意識して、クルーがメーターを見過ぎてしまうことも理由です。メーターに頼るのではなく、運転時の感覚や景色の移り変わりから速度を把握できるようにしないといけません。そのためには正しい運転姿勢で、感覚を研ぎ澄ませることが大切。こうしたことも伝えていきます。
これは個人的な願望ですが、私たちのブルーの車両を見たら「安全運転を徹底している車」だと誰かに思ってもらえるように。そこまで頑張りたいですね。そして、同じ取り組みをする人たちが増えてくれたらうれしいです。安全運転は、誰もが安心して過ごせる社会につながりますから。